消費増税の負担緩和策、日本の苦い経験を反映

2019-09-04

 10月1日は日本の消費者にとって記念日になりそうだ。全国の中小・小規模事業者が、キャッシュレス決済で支払った購入額の5%還元を開始するからだ。幼児教育・保育は同日から無償化され、自動車取得税は廃止となる。他にもまだまだある。

 同日に起きるもう一つの税制変更については、どうか考えないでほしい。消費税率が8%から10%に引き上げられ、割引や控除の対象にならないものは全て値上がりするのだ。
 これは、世界第3位の経済大国が行う興味深い群集心理実験だ。これまで日本の消費者は消費増税に嫌悪感を示してきた。あまりに不評なため、財政赤字に対してこの薬を処方する価値はないと多くのエコノミストが話しているほどだ。だが増税の一部を打ち消す一時的な値引きや税控除といった糖衣で包めば受け入れられやすくなると、安倍氏は見込んでいる。
 この実験は世界の注目に値する。米国を含む多くの国も多額の財政赤字を抱えており、政府が将来の年金・医療保険コストを賄えるのかどうか懸念されているためだ。
 一部のエコノミストは、インフレ率も金利も低い当面は赤字を無視しても大丈夫だと話している。一方、日本の財務省は赤字を埋めるためには増税が必要であり、国民から幅広く集める消費税が最良の資金調達方法だと考えている。問題は、多くの先進国と同様にインフレ率が低く消費者が価格に過敏な状況で、それが成功するかどうかだ。
 日本は1997年と2014年の消費税引き上げで苦い経験をした。14年4月1日に5%から8%に引き上げた際には短期的に小売り支出が急減しただけでなく、日本の弱い(消費者)心理に半永久的なダメージを与えた。5年たっても、個人消費は14年1-3月期(第1四半期)のピークに達していない。
 安倍内閣によると、10月1日から実施される税控除や還元といった措置が生む短期的な刺激効果は、増税による財政引き締めの影響を上回る。問題は、消費税引き上げが恒久的措置なのに対し、5%還元などの措置は1、2年で期限が切れることだ。
 日銀の試算では、政府の歳入は長期的には年間約2兆円増える。これは、消費税を10%に引き上げながら対応策を実施しなかった場合の半分未満だ。
 安倍氏は7月22日、「十二分の対策を講じることで、経済の大宗を占める国内消費をしっかりと下支え」していくと述べた。 
 一部にはもっと楽観的なエコノミストもいる。
 対応策の目玉の1つは中小・小規模事業者でキャッシュレス決済した消費者に対する5%還元だ。購入価格の5%がカードのポイント付与や決済アプリへの返金の形で政府から還元される。
 政府は返金のコストとして約1800億円、店舗の決済システム導入を支援する資金として約1000億円を見込んでいる。
 
 日本政府は10月1日以降に予想される自動車や住宅といった高額商品の買い控えへの対策にも努めている。各省庁は、自動車税の引き下げや住宅購入時の控除に関して説明したポスターやテレビ広告、ビラを消費者に浴びせる準備をしている。
 経済産業省が掲載した2分間のYouTube動画「大きく変わる! 車の税」は、10月から低い税金に向かって走る自動車を描いている。ただし、自動車税の引き下げは一般に、消費税引き上げによる増税幅を下回る。そのため買い手が支払う金額は増える。